財布を長く使いたい、と思って選び始めると、まず出てくるのは素材の名前とブランドの名前です。ところが、実際に十年、十五年と同じ財布を使ってきた人に話を聞いてみると、見ている場所はもっと細かいところにあります。小銭入れの内側が布か革か、カード段が最初にどれくらいきついか、角の縫い目がどうなっているか。この特集では、erutuocのスタッフに集まってもらい、自分の財布がどこから壊れたか、色がどう変わったか、そして次に選ぶならどこを見るかを話してもらいました。長く使える財布の選び方を、使った本人の実感からまとめています。

財布って、みんな何年くらい使っているの?

財布を使う期間は、ある調査では平均三〜四年ほどだと言われています。風水の考え方では一年ほどで買い替えるのがよいとされることもあるそうで、そう聞くと財布は意外と短いサイクルで入れ替わっていくもののように思えます。

ところが、erutuocのスタッフに「今の財布は何年目ですか」と聞いてみると、八年、十年、十五年という答えが続きました。パートナーからもらった財布を八年、ミニ財布を十年、用途で使い分けている三つがそれぞれ十五年、十年、十年。壊れない限りはこれを使う、と自然に思っている人たちです。

買い替えのきっかけは、なくす・壊れる・新しくもらう

その人たちに買い替えのきっかけを聞くと、返ってくる答えはだいたい三つに収まります。なくす、壊れる、そして新しくもらう。このうち自分で選べるのは「壊れる」までの時間だけなので、その時間をどう延ばすかが、長く使える財布の選び方ということになります。

長く使った財布は、どこから壊れたのか

ある人は、縫い目のステッチがほどけてきたのが最初だったと話していました。糸の端が少しずつ浮いてきて、気になりながらもしばらく使い続け、結局そこで買い替えを決めたそうです。

「ステッチがほつれてきた。ピロピロし始めたから、ちょっと嫌だなと思いながらしばらく使ってて、買い替えようと思った」

別の人が挙げたのは小銭入れでした。セレクトショップのプライベートブランドで買った二万円ほどの財布で、小銭入れの縫い目が解けてきて、中で小銭がばらばらになる状態になってしまったといいます。二つ折りの折れ目にあたるコバがざらざらに荒れてきた、もらった財布のカード段が緩んでカードが落ちそうになった、という話も出ました。折れ目、小銭入れ、縫い目、カード段。財布の中で毎日いちばん動く場所が、そのまま傷みやすい場所になっています。

素材で選ぶなら、小銭入れの中と、色が「育つ」かどうか

財布が長持ちするかどうかは、素材の要素と、作り方の要素の二つに分かれます。まず素材の話から書いていきます。

小銭入れの「中」まで革かどうか

小銭は、財布の中でもっとも出し入れの回数が多く、しかも硬いものです。小銭入れの内装が化繊の布だと、その摩擦で布が擦れて、破れて、ぼろぼろになっていきます。実際にそうなった財布を使っていたスタッフは、それ以来、小銭入れの中を確かめてから財布を選ぶようになったと話していました。

「小銭って一番出し入れしているときに摩擦が発生しやすいので、そこは結構気にするようになりました」

この話を受けて、HerScheduleのスタッフが挙げたのが、チェレットシリーズの「amore(アモーレ)」でした。イタリア製の撥水レザーを使っていて、汚れと摩擦に強いことに加えて、小銭入れの中まで同じ撥水レザーで仕立ててあるそうです。小銭入れの内側は汚れやすい場所でもあるので、そこまで同じ革で作ってあることは、長く使う上での安心につながります。

小銭入れは、口の開き方も使い勝手に直結します。指でぐっと押したときに中が見渡せるように開くかどうか。口が狭いと、一度手のひらに小銭をあけてから探す動作が毎回発生します。使いにくい財布は、壊れていなくても結局長くは使われないままになります。

色が「育つ」革と、「汚れる」革

財布を長く使えなくなる理由には、壊れること以外にもうひとつ、汚れて見えてしまうことがあります。汚い感じになってくると、まだ壊れていなくても、そろそろ替えなければという気持ちになります。反対に、飴色の艶が出てくるような変化なら、使うほどに楽しみが増していきます。同じ「色が変わる」でも、価値観としては逆の方向を向いた二つの変化です。

「汚くなってきたから買い替えたいなっていうのと、価値観が割と逆っていうか」

ロベルタ Moa(モア)イタリア製ヌメ革の特別モデル 長財布
飴色に変わっていく過程を前提に作られた、ロベルタ「Moa(モア)」イタリア製ヌメ革の特別モデル

飴色の側に挙がったのは、ヌメ革や薄い茶色の革でした。ロベルタのスタッフが薦めていた、イタリア製ヌメ革の「Moa(モア)」の特別モデルは、まさにそういう変化を前提に作られた財布です。パイソンの財布を四年使っているスタッフは、買ったときは明るいオレンジ色だったものが、今は深みのあるブラウンになっているといいます。パイソンは鱗が浮いて見えるので、剥がれてしまうのではと聞かれることがあるそうですが、使い始めてわりと早い段階で鱗が革にぴたりと沿って一体化してきて、剥がれるということはないと話していました。クロコダイルの財布を使っていた人は、何年使っても艶が出てくるばかりで、へたる感じがなかったと振り返っています。

「ウロコが浮いているように見えますけど、時間が経つことに、ピタッと一体化してきます」

HerSchedule チェレットパイソン 薄手のロングウォレット
鱗が浮いて見えるのは最初のうちだけで、使い始めてわりと早い段階で革に沿って落ち着いてきます。HerSchedule「チェレットパイソン」長財布

いっぽうで、汚れの側に挙がったのは、白い財布と、外側も内側も金色に輝く財布でした。白は汚れやしみがすぐに目立ち、金色は黒ずんできたときに、育ったというより汚れた感じのほうが目立ってしまうといいます。こうした財布は、ある程度汚れてきたら思い切って買い替えるほうが、金運の面でも気持ちの面でもよい、というのが使っていた本人の結論でした。長く使いたいなら、変化を楽しめる色と革を選ぶこと。それだけで、財布との付き合いは十年に近づいていきます。

作りで選ぶなら、カード段のきつさと、写真で分かる縫製

カード段は、最初にきついくらいでちょうどいい

erutuocには、届いた財布のカード段が硬くて最初はカードが入らない、という問い合わせが来ることがあります。ただ、これは逆に考えたほうがよい部分で、最初から柔らかいカード段は、後になるほど落ちやすくなっていきます。

「逆に柔らかすぎると後々むしろ落ちやすくなる」

革は使ううちに伸びますし、カード段は特に伸びる場所です。買ったときに少しきついくらいでも、使っていくうちに馴染んで、ちょうどよくなっていきます。財布を選ぶときに見ておきたいのは、今の手触りよりも、使い始めて一年後の状態が想像できるかどうか、という点でした。

実物を見ずに買うとき、写真のどこを見るか

縫製がよいか悪いかは、ぱっと見ただけではなかなか分かりません。それでも、写真から判断できることはいくつかあります。ひとつは角です。革がいちばん重なる、いちばん複雑な角の部分で、縫い目が寄ったり、生地がぐちゃっとなっていないか。もうひとつは、ステッチがまっすぐかどうか。歪んでいないかは、写真でも比較的分かりやすい要素です。安い財布では、上糸と下糸のかかり方がきわどく、これで大丈夫だろうかと思うステッチになっていることがあります。糸の太さも、ひとつの手がかりになります。

「ステッチはもう、真っ直ぐかどうかは結構見ると分かりやすいですよね。歪んでないかとか」

長財布なら、ファスナーの開け閉めの滑らかさも大切で、ファスナーの布地を縫い付けている部分がまっすぐでないと、引っかかりやすくなるという話もありました。

値段と、作っている人

セレクトショップのプライベートブランドで、相場よりも妙に安いものは、靴と同じで早く壊れることが多いというのが、実際に経験した人の実感でした。作りの手間は、どうしても価格に跳ね返ってきます。財布を専門に作っている工房のものか、アパレルのショップであっても財布ブランドに別注しているものであれば安心、という意見も出ました。バッグを作れる人と財布を作れる人は、必ずしも同じではないからです。本人たちも「偏見かもしれない」と断りながらの話でしたが、革の扱いに慣れているかどうかは、たしかに違いとして出てきます。

「長く使ってほしい」と、各ブランドのスタッフが挙げた財布

最後に、erutuocで扱っている財布の中から、長く使うと楽しいものを、ブランドごとに挙げてもらいました。

HerScheduleからは、先に触れた「amore(アモーレ)」。撥水レザーで汚れと摩擦に強く、小銭入れの中まで同じ革で仕立ててあります。色数が多く、これまで使ったことのない色を、ひらめきのまま選んでもらえたら、という話でした。

ロベルタからは、イタリア製ヌメ革の「Moa(モア)」の特別モデル。ヌメ革は長く使うことをよしとする価値観そのものの素材で、飴色に変わっていく過程を楽しめます。かぶせのかたちで、形としても使いやすい、という話でした。

傳濱野のスタッフは、トレンドに左右されない、飽きの来ないデザインを大事にしているブランドだと話していました。十年持つと、人の価値観のほうが変わってしまいます。それでも持っていられる安心感を、設計の段階から考えているのだそうです。ラム革のイントレチャートは、使うほどに網目が馴染んで滑らかになってくるので、長く使う財布として挙がりました。母から娘へ譲りたい、という言葉も出ています。

「10年持つと価値観が変わるんですよね、人も。でもそれでも持ってられる安心感みたいなところは結構大事にしております」

傳濱野 ラム革×イントレチャート ラウンドファスナー長財布 Riche Bourgeon(リッシュブルジョン)
使うほどに網目が馴染んで滑らかになっていく、傳濱野のラム革×イントレチャート「Riche Bourgeon(リッシュブルジョン)」

coogaからは、白蛇にプラチナの箔をのせた「Ecler(エクレ)」のエターナルプラチナ。千年幸せが続く、というコンセプトを持つ財布で、白がそのまま汚れていく財布とは違い、箔の変化も含めて味わいとして感じられるのではないか、という見立てでした。この日は機能の話とは別に、本体が軽いことも挙げられています。長く使うほどカードが増えて、財布は意外と重くなっていくからです。

毎年買い替える、という考え方もある

まったく逆の価値観で財布を作っているブランドもあります。FRUTTI DI BOSCOのデザイナーは、自分は毎年財布を買い替える、と公言しているそうです。エナメル系のアートレザーは三〜四年ほど使うとエナメルが落ちてくる部分がどうしても出てきますが、七〜八年、十年使ったという人が買いに来ることも多く、それ以上に特徴的なのは、傷んだあと同じ財布をまた買いに来る人が多いことだといいます。

「3〜4年使ってダメになっても同じ財布をまた買いに来ました、この柄が好きで、みたいな人が結構多くて」

好きな柄の新しい状態をずっと手元に置いておく。財布との付き合い方として、これもひとつの答えです。

長く使える財布について、よく聞かれること

財布は平均で何年くらい使うものですか?
ある調査では三〜四年ほどが平均とされています。ただ、素材と作りを見て選び、変化を楽しめる革であれば、十年使っている人は珍しくありません。erutuocのスタッフの最長は十五年でした。
買い替えのサインはどこに出ますか?
ステッチのほつれ、小銭入れの内装の破れ、二つ折りの折れ目のコバの荒れ、カード段の緩みが、この日の話で実際に出た場所です。壊れる前に「汚れてきた」と感じて手放すケースもあり、その場合は色と革の選び方で防げます。
小銭入れの内側は、革と布のどちらがよいですか?
小銭は出し入れの摩擦がいちばん大きいので、内側が化繊の布だと擦れて破れやすくなります。長く使うなら、内側まで革で仕立てた財布のほうが安心です。
届いた財布のカード段が硬くて、カードが入りません。
最初はきついくらいのほうが、後々カードが落ちにくくなります。カード段は使ううちに伸びて馴染む場所なので、一年後の状態を想像して選んでください。
パイソンの財布は鱗が剥がれませんか?
買ったばかりの状態では鱗が浮いて見えますが、使い始めてわりと早い段階で革に沿って一体化してきます。四年使ったスタッフは、鱗が剥がれるということはなく、色はオレンジからブラウンへ育っていったと話しています。
白い財布は長く使えますか?
汚れやしみが目立ちやすく、長く使うのは難しいというのが経験者の実感です。白のかっこよさを求めるなら短いスパンで買い替えるほうがよいかもしれません。白蛇にプラチナの箔をのせた財布のように、箔の変化を味わいとして楽しめる作りのものもあります。

長く使える財布かどうかは、買った瞬間の手触りよりも、毎日いちばん動く場所がどう作られているか、そして色の変化を自分が楽しめるかどうかで決まっていきます。小銭入れの中、カード段のきつさ、角の縫い重なり、ステッチのまっすぐさ、飴色に向かう革。この日話に出た財布は、どれも、そうした場所を見て選ばれたものでした。次に財布を手に取るとき、一年後と十年後の姿を少し想像してみてください。